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紹介状の話

他の病院、医院に「紹介状」を書くことがあります。正式には「診療情報提供書」といいますが、患者さんが転院されるとき、病院に入院されるとき、あるいは画像検査など、他の病院でしかできない検査を受けていただくときに書きます。

春は人々が異動や移動をする季節です。患者さんは精神科の医師に対し、他の科にはない離れがたい気持ち(これを「転移」といいます)がおきることがあり、遠くに転居されても通ってくださる方がおられます。ただ、それを医師が利用して、治せていない患者さんを引き留めたりすることは、私はすべきでないと考えます。私は、患者さんがよくなれば通院間隔をあけ、治れば診療を終え、他の医院でも治療可能なら、遠くに転居されるときに紹介状を書きます。いい先生を探すお手伝いをすることもあります。

そして、精神状態が悪化すれば精神科のある病院に、急にお身体の具合が悪くなれば内科や外科などの病院に入院を紹介します。また、たとえば患者さんが緑内障という目の病気を患っているか最初に確認します。緑内障の一部には、精神科で使う薬の服用を注意すべき場合があるからで、通院されている眼科の先生に、お尋ねすべく紹介状を書きます。

ただ、当院に初めて来られる患者さんが紹介状をもっておられるとき、拝見してもがっかりすることが少なくありません。病名と今の症状、薬の内容だけが書かれているときです。私は、精神科の患者さんを紹介するとき、その方がどういう生活の背景をお持ちで、いつどのような問題が起き、病気を患って受診されてから、どのように診断・治療をされ、お薬の内容がどう変わっていったかを伝える必要があると考えています。そのうえで、現時点でこのような課題があるということを書くのです。「人に歴史あり」「歴史とは現在と過去との対話」という言葉があります。過去の歴史を知ることで現在の姿がよくわかるというものです。

私たちの間では、紹介状をみれば、その医師の診療の実際、能力の一端がわかるともいわれています。こうした紹介状は、急に書く必要が生じることが多く、短い時間で書かないといけません。しかし患者さんの診療をよく行い、診療録(カルテ)をしっかり書いていれば、15分程度の短い時間でも、一枚の紙いっぱいに、簡潔かつ的確にこれらの内容を書くことができるはずだと、経験上確信しています。

そして通院が長い患者さんの場合、保健福祉上のサービスを受けている方がおられます。障害者としての手帳を取得するための診断書には、以前通院や入院をされた病院・医院とその期間なども書かれています。別の医師が次に診断書を書くときは、以前の通院先で書かれた診断書を参照しないと、正確には書けません。転院して来られた患者さんでこうした診断書を書くとき、写しの送付をお願いするのです。ですから次の先生が書かれるときのために、私は紹介状と一緒に診断書の写しも同封しています。こうしたことをすればいいだろうと容易に想像がつくと思うのですが、そこまで気を配られる先生は多くはおられません。

薄い封筒のなかに入った紹介状には、私のいろいろな思いが詰まっています。患者さんが他でもよく理解され、いい治療を受けられることを願っています。

2018-03-06 10:27:00

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風邪の話

病院常勤医として当直をしていたとき、"患者さんが鼻水やくしゃみなど、風邪症状を訴えておられます。何かお薬を。"と呼ばれて、たいていの場合、風邪薬を処方していました。診察して処方しないでいると、患者さんが落ち着かないということがありました。診療所でも、通常の診察後、高熱は出ていないけれど鼻水やくしゃみがあるから風邪薬ももらえますか?などと、たまに聞かれることがあります。多くの場合、風邪薬を3、4日分処方し、それでだめなら内科にいくようと言っています。他の医院にいかず、それまで我慢されてから言われたことに、思いを致さないわけにはいかないからです。

風邪を甘く見てはいけません。最初から内科できちんと診てもらうように言うべきかもしれません。しかし、そもそも薬局の市販風邪薬で済ませる方がいるし、他に通院先のない患者にとって、私は「主治医」であるので、できる範囲のことは対応した方がいいと考えます。他方、処方するなら、それが本当に必要か、必要なら何を処方するかを考えることが望まれます。もし薬が必要ないなら、それを説明します。それでも薬がないと辛そうな顔をされていたら、ごく短期間の処方をします。多くの場合はそれで落ち着かれるようですが、しかしインフルエンザなど他の疾患の可能性もあります。印象では、風邪を訴える方々の5割ほどは普通の風邪薬でいい方、4割ほどはそもそも薬はいらない方です。そして残りの1割ほどは、他の病気の可能性を考えないといけない方という印象がありますが、その場合の対応はできません。内科受診をお勧めします。

風邪には予防が大切です。体力が低下した方を除き、たとえばトイレに行くたびに手洗いやうがいをし、保温としっかりとした食事、睡眠をとることなど、普段の心がけをしっかりしていれば、めったなことでは風邪はひきません。もしひいたら、暖かくして安静を保つことが大事です。風邪薬で少し熱を下げても、すっきりしない時期が長引くことがあります。ひき始めで多少の熱があるが寒気を感じるとき、少ししんどいですが厚着をして寝て、翌朝発汗して自然に解熱できればいいです。漢方薬で有名な葛根湯は、この時期には効果的ですが、通院患者さんでこうした時期に来られることはほとんどありません。どちらかというと、数週間ごとの通院期間の間に風邪をひかれ、その間に治ったという方や、もう何週間も引いているが治らないという方がおられます。そうした方に竹じょ温胆湯を処方することがあり、次回治っていたとよく言われます。なお、これら二つの"方剤"(漢方薬の呼び名)は体力がある程度ある方に向いています。体質や時期により、いろいろ処方は変わります。しかしいずれも、漢方薬を希望されない方に押し付けるつもりはありません。

世界的な気候変動のせいか、最近は夏が非常に暑く、冬が非常に寒くなりました。私たちにとっては過ごしづらい気候ですが、養生をこころがけてください。

2018-01-09 10:13:42

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「おじさん」の役割

以前講義をお聞きしたある高名な先生は、高校時代、“おじさん”の影響を受けて医学部に進んだそうです。同じ職業だったお父様からは、ご自身の学んだことを積極的にご子息に伝えられなかったとのこと。その先生が、“おじさん”は人生で大事な存在だという趣旨を言われ、私もつらつら思いだしました。

昔の大学の先輩に、おじさんから信念、道となるような話を聞いて、地理的に縁のなかった大学に進まれた方がいました。私の場合、いとこの方ですが、年がかなり離れておじさんに近い意識をもつ方に、最近の大学のことで助言を受けました。そして今では、私自身がおじさんとして、助言を与えることがありました。

本来父親は、母親と異なり、細かなことをいわないが、大きな道を指し示してくれるべき存在です。しかし実際の親と子は、面と向かって、感情を抜きにして意見を言い合うには、照れくさいところがあります。親は自分が一番子供を知っていると自負しても、灯台もと暗しで、そう思いこんでいても、却って知らないこともあるかもしれません。明治時代の文豪で軍医だった森鴎外は、子煩悩でしたが、変わった末娘を心配して、早く嫁にやったが、没後、娘は離縁されました。再婚するもまた離縁されたその人は、一説によればASD(自閉スペクトラム症)だったそうです。さすがの鴎外も娘を客観視できなかったのかもしれません。しかし娘さんは、独自の感性が人気を得て、一部で有名な作家となりました。

他方、学校教師に代表される第三者は、その子を客観的にみて関わることができ、冷静な立場から説教をされます。それを聞ければいいのですが、子供の側が、何もわかってくれない、と反発してしまうこともあるでしょう。高校野球の清宮選手は、父親がラグビー界のスターだった方ですが、この父子は、ときに友達のように、ときにコーチのように、率直かつ客観的に対話ができる関係だそうです。しかしそうした父子は日本ではまだまだ少ないのではないでしょうか。

他方、おじさんという存在は、家族ではないが、かといって学校教師のような第三者でもない。小さい時から知ってくれているが、親や教師のように毎日接するわけでない。子供にとって、身近にいても、常に一緒にいたわけではない、ときどきしか会わず、だから愛情をもちつつも客観視できるのかもしれません。おいの立場でおじさんについて書かれた本に、『僕の叔父さん 網野善彦』(中沢新一、岩波新書)があります。文化人類学者である筆者は、おじ~おいという関係は、権威主義的にならない、自由で大事な価値が伝わる関係だとあります。その義理の叔父さんは有名な歴史学者で、お二人のつながりは、この本で知ったのですが、分野も考えも一見違ったようでいて、人間に対する基本的な信頼感、楽観性、民主主義的態度というものは共通しているのだと気づきました。女性だと、おばとめいというように、同性同士がいいように思います。ふだん気づかれていないかもしれないが、大事な人間関係だと思い、書いてみました。

2017-10-17 10:09:47

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日野原重明先生と診療録の話

先日、105歳の天寿を全うされた、故日野原重明先生について、一冊だけご著書を買い、一度卒後研修についての講演を聴いたことがあります。ふだんから、信仰や、戦時中に医師になられた背景もあるでしょうが、いのちと平和の大切さをてらうことなく話され、私には少しまぶしく見えていました。亡くなられたときに報道された、先見の明があったお仕事として、人間ドックや予防医学を提唱されたこと、成人病は(生活)習慣病であるといわれたこと、ホスピスなど終末期医療の普及に努められたことがありました。ただ、全ての科の医師にとって関わりのあるお仕事の一つに、日本の医療に、いわゆるPOSの考えに基づくSOAP形式の診療録(カルテ)記載の導入を促されたことがあります。

私の病院常勤時代は、まだカルテは紙で、医師記録と看護記録は別でした。医師記録は医者の備忘録みたいなもので、昔はドイツ語、その後英語で”簡潔に”書くものとされていました。今はほとんどの病院が電子カルテになり、医師も看護師も、また薬剤師や検査技師、事務職員を含め、全スタッフが診療録を共有する時代で、日本語で書くものとされました。チーム医療というものです。

POSとは、problem oriented systemという言葉の略で、問題志向型方式といいます。何が問題かをその都度考慮し、それに応じて評価をするという考えです。それを具体化した記載法の一つが、SOAPと言われる形式です。①subject(患者さんの主観的な訴え)、②object(客観的な状態)、③assessment(訴えと状態から判断されること)、④plan(その判断から立てた計画)を、毎回書いていきます。たとえば、①からだがだるい、咳が出る。②熱がある、喉が赤く腫れている。③風邪をひかれたのだろう。④休んでもらう。お薬を出す。といったパターンです。

精神科の場合も、こうした方式をとることはできますが、患者さんの訴えの重要度が強いことと、それにも関わらず、こちら側の冷静な判断が求められることが特徴だと思います。そしてその間に、患者さんに、ご自身が理解されていると感じていただくことが必要かと思います。さらに、身体を診る科と違い、変化の速度が、ときに速いものの、ゆっくりであることが多いので、ずっと同じであるようにみえて、時期が経つといつの間にか変わっていたということがあります。また、planについても、細かい方針と巨視的な方針の、両方が必要かと思います。

私の考えを書きましたが、どんなふうに医師、精神科医が考えているかの、一端を知っていただけたのなら幸いです。

2017-09-01 10:14:38

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続 成長することについての話

前回の話の続きです。

人が成長するとは、能力を伸ばすことでもあります。人間の能力の可能性は無限だとは、励ましの言葉としてよく言われることです。電車内の求人広告でも、「薬剤師の可能性は無限だ」などと書かれています。しかし実際は、能力を「無限」に発展させた人などいないし、私たちは常々、能力の乏しさを実感させられており、能力は有限だと思わせられます。可能性は無限、しかし能力は有限とはどういうことでしょう。
 
無理だ、限界だと思っていたことに挑戦し、できなかったことができたと実感することを経験した人はおられると思います。スポーツでの記録を考えるとよくわかりますが、それ以前の自分の記録、すなわち限界値を超えたとき、決して能力が「無限」になったわけではありません。限界値が少し先になったということです。そしてその少し先の新たな限界値に挑むために、また大変な努力を要します。そしていつかそれを超えたら、また限界値が先に進みます。その進みは決して一足飛びではなく、一歩一歩、亀のような歩みです。そしていずれは本当の限界値を知らされる時が来ます。こうして、能力は有限だが、そのなかで無限に限界値を伸ばすことができるという、逆説的な経験をするのです。
 
ある心理学者が、「発達の最近接領域」という学説を打ち立てました。生徒が持っているその時点での能力と、先生、指導者がもつ能力のレベルとは、雲泥の差があります。ではその差はどう縮まるのでしょう。実は生徒は先生の指導を受けて、一気に先生のレベルに到達するのではなく、生徒のその時点でのレベルに「近接」した部分へと少しだけ伸びるのです。その部分を「発達の最近接領域」といい、生徒一人ひとり違うものです。その扉を開くためには、先生は生徒一人ひとりの個性をよく見極めないといけません。やさしすぎてもむずかしすぎてもいけない。そして、生徒にとっては、先生の指導は必ずしもなくてもいい、他の仲間や、生徒の一歩先を進んでいる先輩との共同作業があることが大事だと考えられています。一人では開けられない、しかしみんなともに学ぶなら、教えてもらわなくてもできるようになる、こういう領域は確かにあると感じられます。
 
こうした過程を通じて、一歩一歩能力を高めていき、いつかは先生のレベルに追いつくことができます。そしてときに、生徒が自ら学び、伸びていくことを覚えたとき、生徒が先生を超えることも、ありえます。能力は有限、でも可能性は無限です。こうして人が成長していけるのだと考えます。しかし実際には、ほとんどの人は、自分の限界まで近づく努力をしているとはいえません。対象は何であっても構いません。この春、新しく仕事についた方も、その世界で、少しでも自分の能力を伸ばすことを考えていただければと思います。

2017-04-06 13:22:37

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成長することについての話

春は、多くの若い人たちが学校を卒業し、就職する季節です。学生時代に、勉強、課外活動、またアルバイトで、責任ある役割をしたといっても、社会人になって任される仕事で生じる責任はずっと大きく、それをこなしていくことで、自身が成長していきます。もっとも、学生時代の経験での成長も、その土台をかたちづくります。

在学中所属していた運動部のOBのある先生から聞いた話です。医者になってしんどいことは多々あったが、クラブの練習ほどきついものはなく、これを乗り越えたから自信になった、だから皆さんも頑張ってほしいと。当時は、ほんとかな、と思っていました。確かにつらい経験でしたが、卒業後の勉強や仕事でもっと辛いことは次々とおこりました。OBの先生もご経験済みでしょう。やはり後輩へのリップサービスだったのかなと、長らく思っていました。

なぜ、学生時代のクラブの練習ほどきついものはなかったと言われたのでしょう。最近考えるのですが、客観的にはそれほどきついとはいえない練習ですが、当時の自分にとってはとてもきつかった、高い山のようなものだったのでしょう。が、ある時点で自分の能力の限界に挑戦して何事かなしたなら自信がつく(それは“一皮むけた”ということです)、そして能力が少し伸びるから、自分にとっての限界水準があがっていく、そして次にもっと負荷の強い課題がきても、自信を持ってこなせるようになるということでしょう。

ここから、高い水準のことを成し遂げることは、一足飛びにはできないことがわかります。低い水準のことから始めて少しずつ能力を高めていくこと、いわば一歩一歩成長していくことで、後になって高い水準のことを成し遂げられるようになるのです。つまり、そのときどきの時点で、たいしたことがないと感じても、手抜きをせず、力を尽くすことが、能力を伸ばすことにつながるのです。

このテーマは一話で終わりません。続きをまた書くことにします。

2017-03-22 14:06:32

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認知症と精神科医療

認知症を疑われる方は、長年通院しておられる内科などの先生に多くご相談されているでしょうが、私たち精神科医のところにも来られます。これは私たちにとっての話題なのですが、WHO(ダブリューエイチオー、世界保健機関)が、ICDという、あらゆる病気を分類した事典のようなものを改定中です。このICDという分類は、とくに精神科の患者さんの場合、保健福祉の制度を利用する際に、何番に当たる病気なのかを書かないといけません。そしてこれまで、認知症は、大きく分けて、精神科の分類にも、神経内科の分類にも入っていたのを、神経内科の分類だけに入れるという動きがあります。そして私たち精神科医の学会である、「日本精神神経学会」は、それに反対して、今まで通り、両方の分類に入れるようにと求めています。

神経内科の分類に入る病気は、脳神経によくない状態が起きるものです。よく知られたものでは、パーキンソン病、てんかん、脳性まひ、筋萎縮性側索硬化症などがあります。そして認知症も、そうした脳神経の変化で生じる問題で、神経内科の先生方は、すぐれたお仕事をされています。そして何科の先生であっても、長年患者さんにかかりつけ医として関わってこられて、その人たちのことをよくご存じの先生であれば、よく対応にあたられています。ただ、実際に、認知症で本人や家族が困ってくることに、心理社会的な範囲の問題があります。単に物忘れがひどくなっただけでなく、急に不機嫌になった、性格が変わった、徘徊しだしたといった、精神と行動の問題があり、精神科医の果たす役割があるのだろうと思います。実際には、かなり進んだ段階になって、精神科を訪れる方々が、少なくありません。

進んだ段階になった認知症を患われると、ほとんどの精神科の病気と異なり、患者さんのお話を聞きお気持ちを理解したり、こちらから話しかけて何かを感じていただいたりすることは、ほとんどできなくなります。そして何か困った言動や行動をされるようになっていたら、そのためにお薬を処方することがあります。また、介護認定が必要になると、意見書を書くこともあります。これらはすべて、患者さんお一人お一人にとって、何が必要かを考えてのことです。

現在、ほとんどの精神疾患は、脳神経系にそもそもの原因があると考えられています。そのなかで、1)うつ病や不安症、2)統合失調症、3)認知症、4)てんかんという4つの病気を例にとると、前者であるほど、心理的社会的な問題への対応の必要性が強く、後者にいくほど、脳神経的なそもそもの問題への対応の必要性が強いといえます。これらの疾患のいずれも、精神科医は関わってきましたが、時代の変化とともに、発達に関わることなど、これまでめだたなかったさまざまな問題が起きています。精神科医に求められる課題はますます多様になっています。そして私はこれからも、研鑽に努めていきます。

2017-02-13 17:54:19

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夏の“養生(ようじょう)”

診療所のある昭和町、また阪南町付近は、昭和4年に土地区画整理がされ、その頃に建てられた町屋といわれる木造住宅もまだ残っています。こうした住宅は通気性がよく、高温多湿な夏を少しでもしのぎやすくさせてくれます。しかし今の生活環境は、周囲に建物が密集したり、鉄筋コンクリートのマンションであったり、通気性が妨げられています。そして最近の酷暑から、夏はエアコンなしではまずやっていけません。実際、夏バテや熱中症防止のため、エアコンを入れることや、水分補給を心がけることは必要です。

しかし、暑いからといって、1日中エアコンを入れて室内にこもっていることは、健康によくありません。そのときに涼しくても、後日、かえって疲労が増すのを感じた方もおられると思います。外は暑く室内だけ冷やすと、気温差から自律神経系に支障をきたします。そもそも夏は、身体の新陳代謝が盛んになり、たまった老廃物が、汗と一緒に流れ出ます。汗をしっかりかかないと、老廃物の排出が妨げられて疲労の原因となります。最近、子供さんが、幼少時から空調の効いた部屋ばかりで過ごしていると、汗をかく“汗腺”が発達せず、成長してから熱中症をおこしやすくなることもいわれています。総じて、1日1回は早朝や夕方に、汗をかくようにし、かいた汗は、エアコンで乾かすよりも濡れタオルで拭くようにしたほうがよいです。

そうはいっても、職場環境を選ぶことはできません。炎天下、外回りで上着を持って移動して働いている方、室内でも暑い工場や飲食店で働いている方は、注意しないと熱中症になりそうです。そうした方は水分補給を、できれば冷たい清涼飲料水よりも常温のお茶、スポーツドリンクをとることが望まれます。他方、買物にいって涼しく感じるスーパーやショッピングモールで働いている方は、1日中冷気をあびて、身体が冷えて体調を崩してしまうという方もおられると聞きます。そうした方は衣服に気をつけ、暖かい飲食物をとることが望まれます。身体的不調はこころの不調につながります。

健康法をとりあげたTV番組は視聴率が上がり、雑誌は売れるそうです。私は、心にも影響がある体調不良に、漢方薬を処方することがあります。いわゆる夏バテに対し、「清暑益気湯」という方剤(処方薬)が無難でよく使います。しかしもう少し細かく診て、エアコンで寒くなったという方には、桂枝(けいし)、附子(ぶし)、あるいは麻黄(まおう)といった、身体を温める生薬がある方剤がいいことがあります。冷たい飲み物で胃腸が弱ったという方には、生姜(しょうきょう、しょうがのこと)、それを乾燥させた乾姜(かんきょう)、蘇葉(そよう、しその葉のこと)、陳皮(ちんぴ、みかんの皮)や、香附子(こうぶし)といった生薬がある方剤がいいことがあります。先達の先生から学んだことです。しかしやはり、日常の衣・食・住と睡眠が基本的に大事です。これらによく注意を払って“養生”してください。

2016-07-29 10:33:31

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商店街から健康を考える

診療所のそばの細い通りに、戦後間もないころからあると聞く商店街があります。朝、診療が始まる前と、夕方や夜、診療が終わってから、自転車で通ります。朝は8時前から店を開けておられる魚屋さんや、夜、9時前まで惣菜の残りを売っておられる店もありますが、ほとんどの店は、日中、診療中に開けておられます。休日もあります。ですから、私が行けるとすれば、短い休憩時間の間だけで、買うものが限られ、ほとんど行けません。もともと私は、スーパーができてから閉店した小さな衣料品店で育ったので、こういう商店街には頑張ってほしいのですが。

朝から夜まで共働きで仕事をしている方々は、平日の日中に買い物にいくことはなかなかできないし、週末にスーパーにいくか、最近なら買い物以外の用途も兼ねて、夜にコンビニに行って済ませる方々が多いだろうと思います。ただ、コンビニやスーパーで働いている方々の健康が気になります。

毎日長時間営業しているスーパーでは、従業員の皆さんは交代制勤務で働かれています。シフト勤務で、朝早く出勤する日もあれば、午後から夜まで働く日もある。すると生活リズムが不規則になり、睡眠リズムも乱れやすくなります。まして24時間営業のコンビニでは、オーナーの方は休みをとりづらく、夜間にもっぱら働く方は、もともと眠りにくい日中に睡眠をとらなければならず、健康にとって好ましくありません。そうした方々のおかげで、消費者である私たちには便利な生活がもたらされているのかもしれません。しかしそれで、ますます私たちの生活が、不健康になってきてはいないでしょうか。

精神科の診療所に来られる患者さんに、必ず1日の生活リズムを聞いています。すると、生活リズムが不規則な方が多いのです。そして食生活も、朝食をとらず、昼はコンビニの弁当、夕食は遅い“夜ごはん”という方が少なくありません。一日一食しかとっていないという方もおられます。心が元気でなくなったり不安定になったりすることの原因の一つに、こうした生活の問題もあります。うつ病を治すのにまず必要なことは、薬ではなく健康的な生活です。雇われている身の上だから、自分の意志で生活リズムを決めることができないかもしれません。それでも、できるだけ睡眠時間を整え、朝食をしっかりとって夜食は軽めにするという生活を心がけていただければと思います。

その意味で、商店街のお店の方々のように、朝早く起きて夕方に店を閉める、休日は必ずとるという生活は、健康にはよいだろうと思います。そしてその日の朝に仕入れた新鮮な食材を摂ることは、からだにいいだろうと思います。心身一如(いちじょ)ということばがありますが、からだの健康は、こころの健康にもつながります。

2016-06-07 10:22:15

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桜の話から

近くに“枝垂桜(しだれざくら)”がみられる寺があります。毎年行きますが、昨年行ったときは、もう風雨で散り初めでした。今年、3月も下旬なのにまだ冬のように寒いと思っていたら、急に初夏を思わせる暖かい日もあり、うっかりしていると、また桜花の季節も過ぎそうです。このような気候が毎年続くなら、北海道のように、梅の開花と桜の開花が接近してくるかもしれません。ストラヴィンスキーという作曲家に“春の祭典”という曲があります。北国で、冬が徐々に春になるのでなく一気に春になり、生き物が一斉に芽吹いて活動するという姿を描いています。さらに今後は、春と秋が短く、冬と夏が長い気象へと変動していく予感がします。

今の日本の桜の大半は、“染井吉野(そめいよしの)”で、それは美しいものですが、桜は本来いろんな種類があります。しかし私も、染井吉野と、せいぜい枝垂桜ぐらいしか見る機会がなく、他のものは写真や映像でしか知りません。そして染井吉野は、ただ一つの原木からの接ぎ木でできたもので、すべての木はいわばクローンだそうです。染井吉野だけでいいと思われるかもしれませんが、一種類の遺伝情報だけでは、何か致命的な病害がくるとか、寿命というものがあれば、いっせいに死滅してもおかしくありません。桜はもっと多様だったはずで、いろいろみられるといいと思うのです。SMAPの「世界に一つだけの花」のように。多様な品種の桜が咲く姿がみられれば、そして交配されてもっとたくさんの品種がつくられれば、桜という種の強さにつながるのではないかと思うのです。

ところで、通院される方々の中には、所属する集団の雰囲気、企業の“社風”になじめず、つらくなったり、うつっぽくなったりされた方もいます。その会社の目標に向かって、組織一丸となって進むことは必要なことでしょうが、なかにはそれについていけないとか、雰囲気になじめないという方もいるでしょう。また、厳しくいわれてつらくなるかたもおられるようです。もちろん、頑張れるところは頑張っていただきたいのですが、十分頑張ったけれど、できないという場合もあります。そんな方々でも、何か得意なところを見いだされて、それが発揮されればいいと思うのですが、甘い考えでしょうか。“一人ひとり違う種を持つ”というのは、歌の中の話だけでしょうか。ダイバーシティ(多様性)ということばが最近ときどき言われます。多様な考えを持った多様な人々が存在することは、長い目でみれば集団を強くするものと思われるようになってきました。多様な人々をまとめあげることは簡単ではありませんが、集団をまとめる方々には期待したいものです。

最後に、この時期は、季節の変わり目というそれだけで、心身に不調をきたしやすくなるようです。通院を始める患者さんが一番多い時期でもあります。みなさんも、ご自身の心と身体の声に、よく耳を傾けてみてくださいますように。
 

2016-04-05 16:44:47

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