桜の話から

近くに“枝垂桜(しだれざくら)”がみられる寺があります。毎年行きますが、昨年行ったときは、もう風雨で散り初めでした。今年、3月も下旬なのにまだ冬のように寒いと思っていたら、急に初夏を思わせる暖かい日もあり、うっかりしていると、また桜花の季節も過ぎそうです。このような気候が毎年続くなら、北海道のように、梅の開花と桜の開花が接近してくるかもしれません。ストラヴィンスキーという作曲家に“春の祭典”という曲があります。北国で、冬が徐々に春になるのでなく一気に春になり、生き物が一斉に芽吹いて活動するという姿を描いています。さらに今後は、春と秋が短く、冬と夏が長い気象へと変動していく予感がします。

今の日本の桜の大半は、“染井吉野(そめいよしの)”で、それは美しいものですが、桜は本来いろんな種類があります。しかし私も、染井吉野と、せいぜい枝垂桜ぐらいしか見る機会がなく、他のものは写真や映像でしか知りません。そして染井吉野は、ただ一つの原木からの接ぎ木でできたもので、すべての木はいわばクローンだそうです。染井吉野だけでいいと思われるかもしれませんが、一種類の遺伝情報だけでは、何か致命的な病害がくるとか、寿命というものがあれば、いっせいに死滅してもおかしくありません。桜はもっと多様だったはずで、いろいろみられるといいと思うのです。SMAPの「世界に一つだけの花」のように。多様な品種の桜が咲く姿がみられれば、そして交配されてもっとたくさんの品種がつくられれば、桜という種の強さにつながるのではないかと思うのです。

ところで、通院される方々の中には、所属する集団の雰囲気、企業の“社風”になじめず、つらくなったり、うつっぽくなったりされた方もいます。その会社の目標に向かって、組織一丸となって進むことは必要なことでしょうが、なかにはそれについていけないとか、雰囲気になじめないという方もいるでしょう。また、厳しくいわれてつらくなるかたもおられるようです。もちろん、頑張れるところは頑張っていただきたいのですが、十分頑張ったけれど、できないという場合もあります。そんな方々でも、何か得意なところを見いだされて、それが発揮されればいいと思うのですが、甘い考えでしょうか。“一人ひとり違う種を持つ”というのは、歌の中の話だけでしょうか。ダイバーシティ(多様性)ということばが最近ときどき言われます。多様な考えを持った多様な人々が存在することは、長い目でみれば集団を強くするものと思われるようになってきました。多様な人々をまとめあげることは簡単ではありませんが、集団をまとめる方々には期待したいものです。

最後に、この時期は、季節の変わり目というそれだけで、心身に不調をきたしやすくなるようです。通院を始める患者さんが一番多い時期でもあります。みなさんも、ご自身の心と身体の声に、よく耳を傾けてみてくださいますように。