感染症から身を守るために

まれにくしゃみをよくするとき以外、診察室でマスクをすることはありません。その理由の一つに、精神科の患者さんの場合、何気ないしぐさや態度でも不安にさせてしまうことがあります。「白衣高血圧」という話がありますが、白衣を着ない精神科医はけっこういます。患者さんにくつろいだ雰囲気のなかで話をしてもらいたいということでしょう。ただ私は、そこまではしていません。私服なら高級品、ないしセンスのいいものを考えないといけません。しかし、医療的には清潔が何より重要です。ここでいう「清潔」とは、見た目の問題ではなく、感染の原因になる物質を免れているという意味です。もし白衣を着ないなら、外と中で衣服を替えたほうがいいと考えます。とくに入院患者さんのいる病院ではそうです。

私自身は、風邪をひかないよう、非常に注意しています。院内外で履物も替えています。そして診察室の洗面コーナーで、診察の合間に思い出したら、顔を洗って鼻をかみ、うがいをすることができます。皆さんも、外から帰ったとき、そして小便をして手洗いをするときに毎回顔を洗い、うがいをして鼻をかむようにすれば、そして睡眠をとり疲れを残さないようにすれば、よほどのことでは風邪をひきません。そしてマスクは、自分の感染を防ぐこと以上に、他人に感染させないためという効果があります。

先週、ある患者さんから、この時期だからマスクをしたほうがいいといわれました。ありがたい話ですが、こうした考えを手短に話すことができませんでした。そもそも、こうした話を、医学的な厳密さをそこなわずに上手に伝えることは、簡単ではありません。

出身大学の後輩で総合診療をされている開業医で、マスコミにも発信しておられる先生がいます。外国人診療やHIV罹患者支援など様々な活動を熱心にされ、畏敬の念を抱いていますが、毎日新聞に医療記事を書いておられます。現在トピックとなっている感染症の話を最近書かれています。現在、感染症を専門とする多くの先生方が、日々TVやマスコミに登場しています。立場もあるのか、“奥歯にものが挟まったような”言い方に聞こえることがあります。今回の事態で保健行政には問題はあると思われ、実際、周辺諸外国から日本を見る目は徐々に厳しくなっています。そして数日でどんどん事態が変わっていくなか、以前の話がすっかり色あせてしまうようにみえます。医療専門家でさえ日々知識を更新していかないといけないなか、一般の方々はどう考えたらいいかわからなくなるでしょう。

こうした方々に、ただ不安を強めるだけでなく、正確に知っていただくことが望ましいと考えます。この先生は、おそらくもっといろいろ知って、言いたいこともあるだろうと思います。実際医者向けの記事では辛辣なことをよく書かれています。しかし新聞で一般読者を対象とする以上、その時点で確かなことだけを慎重に書くようにして、しかしただ単に大丈夫だという話を書くのではなく、不安や疑問に思うような点も掘り下げて書こうとされています。こうしたことは簡単なことではないし、それで紹介する次第です。

「大融寺町谷口医院」のサイトから、「毎日新聞 医療プレミア」という連載記事がみられます。