風邪の話

病院常勤医として当直をしていたとき、”患者さんが鼻水やくしゃみなど、風邪症状を訴えておられます。何かお薬を。”と呼ばれて、たいていの場合、風邪薬を処方していました。診察して処方しないでいると、患者さんが落ち着かないということがありました。診療所でも、通常の診察後、高熱は出ていないけれど鼻水やくしゃみがあるから風邪薬ももらえますか?などと、たまに聞かれることがあります。多くの場合、風邪薬を3、4日分処方し、それでだめなら内科にいくようと言っています。他の医院にいかず、それまで我慢されてから言われたことに、思いを致さないわけにはいかないからです。

風邪を甘く見てはいけません。最初から内科できちんと診てもらうように言うべきかもしれません。しかし、そもそも薬局の市販風邪薬で済ませる方がいるし、他に通院先のない患者にとって、私は「主治医」であるので、できる範囲のことは対応した方がいいと考えます。他方、処方するなら、それが本当に必要か、必要なら何を処方するかを考えることが望まれます。もし薬が必要ないなら、それを説明します。それでも薬がないと辛そうな顔をされていたら、ごく短期間の処方をします。多くの場合はそれで落ち着かれるようですが、しかしインフルエンザなど他の疾患の可能性もあります。印象では、風邪を訴える方々の5割ほどは普通の風邪薬でいい方、4割ほどはそもそも薬はいらない方です。そして残りの1割ほどは、他の病気の可能性を考えないといけない方という印象がありますが、その場合の対応はできません。内科受診をお勧めします。

風邪には予防が大切です。体力が低下した方を除き、たとえばトイレに行くたびに手洗いやうがいをし、保温としっかりとした食事、睡眠をとることなど、普段の心がけをしっかりしていれば、めったなことでは風邪はひきません。もしひいたら、暖かくして安静を保つことが大事です。風邪薬で少し熱を下げても、すっきりしない時期が長引くことがあります。ひき始めで多少の熱があるが寒気を感じるとき、少ししんどいですが厚着をして寝て、翌朝発汗して自然に解熱できればいいです。漢方薬の葛根湯は、この時期にはよく使用されますが、通院患者さんでこうした時期に来られることはほとんどありません。どちらかというと、数週間ごとの通院期間の間に風邪をひかれ、その間に治ったという方や、もう何週間も引いているが治らないという方がおられます。そうした方に竹じょ温胆湯を処方することがあります。なお、これら二つの”方剤”(漢方薬の呼び名)は体力がある程度ある方に向いています。体質や時期により、いろいろ処方は変わります。しかしいずれも、漢方薬を希望されない方に押し付けるつもりはありません。

世界的な気候変動のせいか、最近は夏が非常に暑く、冬が非常に寒くなりました。私たちにとっては過ごしづらい気候ですが、養生をこころがけてください。